竹取物語

「かくあまたの人を賜ひてとどめさせたまへど、許さぬ迎へまうで来て、取り率(ゐ)てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、かくわづらはしき身にてはべれば。心得ずおぼしめされつらめども、心強く承らずなりにしこと、なめげなるものにおぼしめしとどめられぬるなむ、心にとどまりはべりぬる」 とて、 今はとて天の羽衣着るをりぞ君をあはれと思ひいでける とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて奉らす。中将に天人取りて伝ふ。中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほしく、かなしとおぼしつることも失せぬ。この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して上りぬ。